扇子
読み方:せんす
関連語:和紙・夏
扇子は、扇いで涼をとるものだけでなく、和服を着る時の必需品として使用されています。それ以外にも芸やお茶の世界など様々な分野で使われ、それぞれに形式や意味を持っています。
扇ぐ道具、飾る道具
扇子は、大きく分けて二つの役割があります。
一つは、扇いで涼をとるための役割です。当初は全面木製で大きさも30cmほどありましたが、夏用に竹と紙で作られたものが作られてからは、扇いで暑さを和らげる目的で使えるようになりました。団扇〔うちわ〕とともに、扇風機が普及するまでは、扇子は庶民にとって夏の必需品でした。
もう一つは、装飾品としての役割です。平安時代は、貴族の正装の必需品として用いられていました。また、茶道や能、舞などにも欠かせない重要な道具として用いられます。現在の日常生活では、主に和服での冠婚葬祭には祝儀扇と呼ばれる専用の扇子が一年を通して用いられています。
メモ帳から装飾品へ
扇子の誕生は、平安時代初期です。数枚の木簡〔もっかん〕(文書の記述・保存に用いた薄い木の板)を持ち歩くために片端を綴じて使用したのがその始まりです。これを檜扇〔ひおうぎ〕と言います。当時は主に男性が公の場で使っていましたが、檜扇に絵が描かれるようになり、装飾品として女性が好んで使うようになります。
その後、竹や木の骨組みに片面だけ紙を貼った蝙蝠扇〔かわほりせん〕が登場し、現在の扇子の原型が出来上がります。これは涼をとれる夏用の扇子でした。鎌倉時代に日本の扇子は中国に渡ります。中国で扇子は両面貼りになり、室町時代に日本に逆輸入されて普及しました。鎌倉時代までは、貴族や神職者しか使えませんでしたが、このころに庶民の使用が許されました。そこから、能や演劇、茶道に用いられるようになり、江戸時代には庶民の必需品として、重要な産業の一つに発展しました。
しかし、昭和30年代中頃から民間に扇風機が普及し、団扇〔うちわ〕とともに扇子の需要は激減しました。
時と場合に応じて
扇子は、時と場合に応じて多くの種類があります。
和服での冠婚葬祭に用いる祝儀扇は、和服の種類(訪問着や礼装など)の違いや、男女によって使用する扇子が異なります。
茶道、能、舞などでは、茶扇、能扇、舞扇という風に決まった形式のものを使います。これらは扇面に描かれる絵の種類も違いますし、使い方も様々です。
例えば、茶道の世界では、膝の前に扇子を置くことが作法の一つにあります。扇子を自分の前に置くことで相手への敬いの念を表すという使い方をします。
また、能の世界では、地謡〔じうたい〕(情景描写や主役の心情を代弁する役)が扇子を使用します。扇子を自分の前に置くことで、自分の回りに結界を張り、本来自分はそこには存在しないということを表します。
扇子の材料:竹 和紙