文机
読み方;ふづくえ
最近では文机といっても必ずしも手紙や文書を書くものとしてだけでなく、パソコンを置くという現代的な使われ方もしています。時代が変われば用途も様々です。
手軽に移動、どこでも使える
文机とは床に座って使う低い木製の机のことです。手紙を書いたり読書をする際に使用します。座って使うことから、座机とも呼ばれています。
現代の家庭で子供に文机を与えて勉強させることはほとんどありません。
しかし、今の学習机などと違い、文机は脚を折りたたむことで狭いスペースに収納できたり、別の部屋への移動も簡単にでき、椅子を使う机に比べて圧迫感がなく、狭い日本の住宅事情の理にかなったとても便利な家具なのです。最近では床に座ってパソコンを使う人のためにパソコンデスクとして売っている場合もあります。
何でもデジタルで済ませる今日では、紙と筆を用意し、文机に向かって手紙をしたためるのもかえって新鮮かもしれません。
実用的にも芸術的にも
「つくえ」という言葉は日本書紀にも書かれており、もともと食べ物を入れた食器を乗せる台のことを指しました。
やがて物を乗せる台全般を「つくえ」と呼ぶようになり、それらの中で本を読んだり文書などを書いたりする時に使うものを、「ふみつくえ」や「ふづくえ」と言うようになりました。
平安時代初期に登場した文机ははじめ、寺院での写経や説法、宮中・官庁などでの行事といった公の場で使われていました。
その後、平安時代後期になると貴族たちの個人用として使われだしました。甲板〔こういた〕(机の上面の板)の両端に筆返しとよばれる、筆や巻紙が落ちないように勾配や縁をつけたものが施された文机がありましたが、これは位の高い人たちのみが使うことを許されていました。
鎌倉時代以降、文机は僧侶の間で盛んに使われるようになり、赤や黒の漆で塗り分けられたりメッキが施されて、実用面だけでなく美しさも追求されました。
江戸時代に入ると、庶民の子供たちも読み書きや算盤を習うようになり、寺子屋や私塾が発達し、文机も大衆家具として普及しました。
木目の美しさを味わう
文机の材料は木目が鮮明で美しい欅〔けやき〕や、今では手に入りにくい落葉樹の栓〔せん〕などが使われます。
製作には蟻組〔ありくみ〕といわれる、凸凹をつけた板で釘を使わず、前板と側板を組み合わせる手法など、高度な技術が取り入れられています。
仕上げには木目の美しさを十分に生かされるよう何度も漆が塗り重ねられます。このようにして作られた文机は一生使えるほど丈夫で長持ちします。
最近は椅子に座るタイプの机を使用する人が多いため、文机の需要は減少しましたが、今も文机は工芸品として職人の手によって作られています。
■参考文献・ウェブサイト
- 家具日本史小百科 小泉和子 東京堂出版 1995