蹴鞠
読み方:けまり
蹴鞠は今から1400年程前に中国から伝わった遊びで、鞠庭〔まりにわ〕と呼ばれる専用の庭で鞠を蹴る技術の高さを競います。相手に受け取りやすく、打ち返しやすい球を送る上手さを競う平和的な競技です。
勝敗よりも、見た目の美しさを
元々中国から伝わった遊びです。勝敗のない平和的な遊び方という特徴から蹴鞠を行うことで天下泰平〔てんかたいへい〕・五穀豊穣〔ごこくほうじょう〕・心身の強健・一家の繁栄平和を祈る目的としても行われてきました。
鞠庭は神聖な場所とされ『鞠懸かり〔まりがかり〕』と呼び、鞠庭に植えられる式木〔しきぎ〕(※1)も『懸かりの木〔かかりのき〕』と称えられます。
また、蹴鞠は技の美しさや礼儀正しさが重要視され、はっきりとした勝敗はありません。鞠を蹴る動作は全て摺り足で行い、上半身は動かさずに水鳥が泳ぐように競技を行います。伝統的で日本的な非常に優雅な遊びです。
※1・・・鞠庭を作る際に庭の四隅に植える木の総称で、通常は松・桜・柳・楓の4種を植えます。
偉人達に愛された「蹴鞠」
今からおよそ1400年程前に仏教などとともに中国から伝わったもので、「大化の改新」(645年)で有名な、中大兄皇子と藤原鎌足は蹴鞠を通じて親密になったと言われています。
蹴鞠には飛鳥井〔あすかい〕流と難波〔なんば〕流という2つの流派があり、飛鳥井流には鎌倉幕府2代将軍・源頼家〔みなもとのよりいえ〕らが、難波流には、五代執権・北条時頼〔ほうじょうときより〕らが入門しました。室町から江戸時代にかけて、難波流は衰退してゆきましたが、飛鳥井流は受け継がれ、明治時代に一旦途絶えながらも、明治36年には蹴鞠保存会が結成されました。蹴鞠保存会は現在も京都にある白峯神宮〔しらみねじんぐう〕で月2回練習を行っています。
平成15年には蹴鞠保存会の創立100周年を記念し、「蹴鞠碑」の建立も行われました。
高貴な鞠と鞠庭
蹴鞠に使用される鞠は鹿の皮2枚を円形にして縫い合わせ、内部には大麦の穀粒を詰め込みます。内側から張り膨らませて、形を整えた後に鉛白〔えんぱく〕(※2)で化粧を施し、穀粒を抜いてから綴じふさいで完成となります。(※当ページの蹴鞠画像は観賞用の鞠を参考に描かれています。実際に競技に使用する鞠とは異なります)
また、鞠庭を作るには庭の四隅に式木(四季木)を植えます。通常の式木とは別に、宗家・将軍家などに作られる鞠庭は4本とも松の木が植えられ、最上級の鞠庭とされます。
※2…鉛白/塩基性炭酸鉛を成分とする白色顔料。人体に有毒。
鞠庭の方位を利用
普通6〜8人で一座(1試合)を行うとされます。鞠を蹴る人を「鞠足〔まりあし〕」と呼び、鞠足たちは鞠庭を8または6方位に分けた位置に立ちます。これを八境〔はっきょう〕と言って、南面の鞠庭で北西の位置を「一」の懸かりまたは「軒〔のき〕」と言い、以下、南東を「二」、北東を「三」、南西を「四」と言い、この4人の鞠足が軸となって鞠を蹴ります。「五」以下の者は「つめ」と言い、外れた鞠を蹴り戻す役目をします。初め『小鞠〔こまり〕』と言って足馴らしをした後「軒」(−)からあげ鞠を始め、最後は「二」から「軒」に渡して一座を終わります。一座に要する時間はその時の状況にもよりますが、およそ15分から20分ぐらいでしばらく休息を取り、次の座(二座)に移ります。興が進むと、三座、四座というように鞠足のメンバーを替えて蹴ります。