美濃和紙
読み方:みのうわし
関連語:障子
産地:岐阜
薄くて丈夫で、漉きムラがなく、タイプライターや岐阜提灯に使われる典具帖紙〔てんぐじょうし〕(※1)、蛇の目傘やビニールハウス用の温床紙〔おんしょうし〕(※2)など、日常的に使用するものから伝統産業に使われるものまで多彩な用途があり、陶磁器の「瀬戸物」のように、和紙の代名詞のごとく扱われる日本屈指の紙です。
障子紙から温床紙まで
美濃紙は薄くて丈夫で漉きムラがないという特徴から、障子紙や記録用紙などの日常的なもの以外にも実に多種多様に用いられています。
※1『典具帖紙』・・・美濃で漉きはじめたもっとも薄い楮紙のひとつで、江戸時代には裏張り〔薄く張りのない物の裏に補強のため、紙や布をはること〕や漆濾し〔うるしこし〕(漆に含まれる微細な塵が混入しないようにろ過する作業)に用いられていました。近代欧米に輸出されていたものは貴重品の包装、歯科医療・美術品の補修裏打ちなどに用いられていたようです。現在ではタイプライター用紙や岐阜提灯に使用されています。
※2『温床紙』・・・内部を堆肥(有機肥料)の発行熱や電熱などで温めて促成栽培する苗床の囲いに張る紙で、大正3年(1914)に愛知県の農園に頼まれて当時の美濃市長が専用の温床紙を作りました。中国にも輸出され、広い需要がありましたが、やがてビニール製品で代用されるようになり、衰退していったようです。
日本最古の紙
美濃・筑前・豊前の紙は、現存する日本最古の紙である大宝律令(701)のもとに作成された戸籍用紙(名前・性別・年齢などを記載する用紙)に採用され、現在も奈良県の正倉院に保管されています。また、飛鳥時代は仏教が盛んで写経(経文を書写すること)に使用するための写経用紙が各地から都に集められましたが、品質の良さをかわれて一番多く納めたのが美濃国でした。
平安時代に入ると、紙の製造はますます盛んになり、美濃国から京の紙屋院に大量の紙が届けられ、製紙の原料となりました。延長5年(927)には、美濃国にも官営の製紙所(紙屋院の支所)ができ、美濃紙はいっそう評判を得るようになりました。
「背中で覚える」美濃和紙の伝承』
美濃和紙は用途により、楮・三椏〔みつまた〕・雁皮〔がんぴ〕の3つの原料を使い分け、それぞれに合った強度・厚さの紙を製作します。
美濃では独自の漉き方が現在も受け継がれています。普通の流しすきのように漉き簀〔す〕を前後に揺するだけでなく腰を使って大きくゆったりと横にも揺すります。丁寧に何度も繰り返すうちに、原料の繊維は十文字に絡み合い、ムラがなくなります。
昔から「美濃の紙漉きは背中で覚える」といわれ、初めて紙を漉くとき、漉き簀を持ったその後ろから、手慣れた者が抱えるように一緒に漉き簀を持って揺すり加減を覚えていきます。漉き方に教則本などはありませんが、背中で微妙な動きを感じ取って体得し、そしてまた次の世代へと伝えています。
■参考文献・ウェブサイト
- 和紙文化辞典 久米康夫 株式会社わがみ堂 1995
- 日本の伝統工芸品産業全集 犬丸直 吉田光邦 ダイヤモンド社 1992
- 美濃市観光協会「美濃和紙」『美濃市観光協会』(2004.06.23)
- 美濃商工会議所「和紙・観光・イベント」『美濃商工会議所ホームページ』(2004.06.23)
- 美濃和紙の里会館『美濃和紙の里会館ホームページ』(2004.06.23)