鶴の恩返し
読み方:つるのおんがえし
同義語:鶴女房・夕鶴
関連語:着物(衣)・冬
関連人物:木下順二
鶴の恩返しは、助けた鶴がその恩を返すためにやってくるという話です。「おじいさんとおばあさんの娘になる」という話から、「青年の嫁になる」「青年の嫁になり、子どもを授かる」といった話まで様々です。新潟や山形などの北国が発祥と考えられていますが、全国に似たような話が点在しているようです。
人間の心理を表した民話
鶴の恩返しは一般に「何か良いことをすると必ず別の良いことが自分にかえってくるよ」という教訓を交えた話であると考えられがちです。しかし実際は、動物を助ける優しさを持ちながらもたった1つの約束(「決してのぞいてはいけない」という約束)さえ守れない愚かさを合わせ持った人間の、複雑な心理を表しているという説もあります。
愛情の物語「夕鶴」
「鶴の恩返し」のような話は東北地方を中心に伝承されており、全国に点在していますが、どれも少しずつ違います。絵本などで私たちが読んだことのある「鶴の恩返し」は、実は1949年に戯曲作家の木下順二が発表した「夕鶴」という物語が基となっています。「夕鶴」は青年"よひょう"と鶴の"つう"の愛情と人間本来の欲を描いた作品です。現在絵本などで読む「鶴の恩返し」は、この「夕鶴」の主人公よひょうをおじいさんおばあさんに、愛情の物語を恩返しの物語にと子どもにも分かりやすく変換したもののようです。
鶴の恩返し
むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。ある寒い雪の日、おじいさんは町へたきぎを売りに出かけた帰り、わなにかかっている一羽の鶴をみつけました。動けば動くほどわなは鶴を締めつけます。おじいさんはとてもかわいそうに思いました。
「じっとしていなさい。動いてはいかん。今助けてやるからなあ。」
鶴を助けてやると、鶴は山の方に飛んでいきました。
家に帰ると、おじいさんはその話をおばあさんにしました。
すると入口をたたく音がしました。
「だれでしょう。」とおばあさんは扉をあけました。
美しい娘さんがそこに立っていました。
「夜分すみません。雪が激しくて道に迷ってしまいました。どうか一晩ここに泊めてもらえないでしょうか。」
「ごらんの通り貧しくて十分な布団はありませんがよかったら泊まっていって下さい。」
娘さんはこの言葉に喜びそこに泊まることにしました。
次の日も、また次の日も雪は降り続き数日が過ぎました。
娘さんは心優しく二人のために炊事、洗濯、何でもやりました。寝る前にはおじいさん、おばあさんの肩をやさしく揉んであげました。
子供のいない二人は、わが子のように思いました。
ある日、娘はこう言いました。
「私は綺麗な布をおりたいと思います。糸を買ってきてくれませんか。」
おじいさんはさっそく糸を買って来ました。作業を始めるとき、こう言いました。
「これから、機をおります。機をおっている間は、決して部屋をのぞかないでください。」
「わかりましたよ。決してのぞきませんよ。素晴らしい布をおってください。」
部屋に閉じこもると一日じゅう機をおり始めました。夜になっても出て来ません。次の日も次の日も機をおり続けました。おじいさんとおばあさんは機の音を聞いていました。
三日目の夜、音が止むと一巻きの布を持って娘は出てきました。それは実に美しいままで見たことのない織物でした。
「これは鶴の織物と言うものです。どうか明日町に行って売ってください。そしてもっと糸を買ってきてください。」
次の日。おじいさんは町へ出かけました。
「鶴の織物はいらんかね。鶴の織物はいらんかね。」とおじいさんは町を歩きました。とても高いお金で売れたのでおじいさんは糸と他の物を買いました。そしてうれしく家に帰りました。
次の日、娘はまた織物をおりはじめました。三日が過ぎたとき、おばあさんはおじいさんに言いました。
「すばらしい織物をどうやっておるんじゃろ。ちっとのぞいてみたい。」
「ちょっとだけ。ほんのちょっとだけですよ。」
とうとうのぞいてしまいました。
娘がいるはずの部屋では、一羽の鶴が長いくちばしを使って羽根を抜いて糸に織り込んでいました。
その夜、娘は織物を持って部屋から出てきました。
「おとうさん、おかあさん、ご恩は決して忘れません。私はわなにかかっているところを助けられた鶴です。恩返しに来たのですが、姿をみられたからにはもうここにはいられません。長い間ありがとうございました。」
と手を広げると、鶴になり、空に舞い上がると家の上を回って、山の方に飛んで行ってしまいました。
※「は:鶴の恩返し」の内容はMasahiro Kudo『old stories of japan(日本昔ばなし英訳版・日本語訳・わらべ歌・子守歌)』より転載許可を頂いた上で掲載しています。