餞別とお土産
読み方:せんべつとおみやげ
関連語:あいさつ・熨斗と水引
日本人の贈答習慣のうち、もっとも頻繁に行われるものは旅行土産だそうです。餞別は、引越しや転勤などの際に贈られますが、かつて餞別と土産はセットで旅の習俗として欠かせない習慣でした。
お土産強迫症
日本の慣習の中でもことさら重要なのが贈答です。その中でも土産は現代でも馴染み深いものでしょう。国内であれ、海外であれ、どこへ行っても土産を買って回る日本人の姿は有名です。これを一部の研究者は、お土産強迫症などと呼び、土産を買わなくてはいてもたってもいられない日本人の習性を指摘しています。日本人は近所や職場の人にも土産を買いますが、外国人は家族・友人にのみ買っていくそうです。
また、餞別は引越しや転校、転勤、長期旅行などの際に、「新しい環境になっても今まで通りお元気で」「これからもよろしく」などの意味を込めて、転居先で役立つような物品や金銭を贈ります。欧米では餞別という習慣はあっても、餞別に金銭を贈ることはないようです。
「餞」は「馬の鼻向け」に由来
交通機関が未発達だった昔は、遠出の旅行には苦難・困難がつきものでした。そのため、人々は旅に出る人の安全を祈願し、物品や金銭、詩歌を贈ったり、宴を催しました。平安初期の『土佐日記』にも「うまのはなむけ」という言葉が記されており、餞別の習慣はかなり古くから存在したようです。「餞〔はなむけ〕」という言葉は本来「馬の鼻向け」という意味で、旅立つ人の目的とする方向へ見送る人が所有する馬の鼻を向けてその安全を祈ったことに由来します。
「土産」は元々「宮笥〔みやげ〕」といい、寺院や神社に参拝した際の神の恩恵を、お守りやお札等の仏や神にまつわる物品と共に近所や親しくしている人々に分けようとしたのが本来の意味だといわれています。その後、室町時代には公家が伊勢神宮に参詣した際、木綿や小刀、毛抜き等の日常的な物品を土産物にしています。江戸時代には土産物屋が登場し、寺社参りの興隆と共に土産の習慣は定着するようになりました。
かつて村落では、旅行費用の積み立てを行ったところもあったようです。旅行者は村の代表として、村人から集めたお金で遠くの寺社に参拝し、帰郷の際には旅費の代わりに神仏の恩恵(お守りやお札など)と共に土産話を聞かせていました。村人たちは普段耳にすることのない異国の話を聞き、知見を広げました。
餞別には実用品
友人やお世話になっていた人が引越しをする場合、今までの感謝の意をこめて現金や物品の餞別をすると喜ばれるものです。品物の場合、スリッパやテーブルクロス、エプロンなどの実用品が選ばれるようです。引越しの際に邪魔にならないよう、あまり場所を取らないものが好まれるようです。きちんと包む際は、紅白の結び切りの水引のついた熨斗紙に「餞別」「はなむけ」などと表書きします。目上の人には「餞別」と書くと失礼にあたるので、その場合は「御礼」と書きます。餞別をもらったら、新しい土地や職場に無事移ったという報告を添えて礼状を出します。基本的に餞別のお返しは必要ありません。
日本人が国内で買う土産は、20年前では陶器・人形などが人気だったようですが、今では安く、軽くてかさばらないものが好まれているようです。一方で、日本に来た外国人が故郷の人々に買っていく土産は、陶器・人形などが多いようです。日本的なイメージにぴったりだからとか。
■参考文献・ウェブサイト
- 日本風俗史事典 日本風俗史学会 弘文堂 1994
- 日本人の生活文化事典 南博・社会心理研究所 勁草書房 1983